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「真実」に惑わされるな

徒然なるままに読んでいた片岡義男の名著に唸りっ放し。例えばこんな文章。時代を超えただいじなことが書かれていると思う。

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 1968年に、ハンク・スノウ(Hank Snow 1914-1999)やマーティ・ロビンス(Marty Robbins 1925-1982)はジョージ・ウォレス(George Corley Wallace 1919-1998)に投票し、巡業さきではウォレスの宣伝を盛んにやった。テックス・リター(Tex Ritter 1905-1974)やロイ・エイカフ(Roy Acuff 1903-1992)は、ニクソン大統領の就任式に、大統領から個人的に招待された。ジョニー・キャッシュ(Johnny Cash 1932-2003)は、「アメリカ政府がやっていることだから」という理由でヴェトナム戦争に賛成している。マーティ・ロビンスは、『ラヴシック・ブルース』をじつにうまくうたい、ヴェトナム戦争に反対している。理由は、「アメリカが勝ったら、またひとつやしなうべき国を背負いこむことになるから」なのだ。
 このようなメンタリティの人たちにとってたとえばジャン・ハワード(Jan Howard 1930- )がうたう『私の息子』という歌など、最も「真実」にちかいものなのだ。この歌は、ジャンが実際にヴェトナムへ戦争しにいっている自分の息子からもらった手紙を材料にしてつくった歌で、歌ができてレコードになってから、その息子は戦死してしまった。
 『私の息子』はジャン・ハワードのおハコになっている。感きわまって、途中で泣き出すこともあり、アナウンサーとかそのときのショウの主役が「じつはジャンの息子がヴェトナムでその命をアメリカにささげたのです、ジャンも息子も立派ですね」というようなことを、必ず言う。
 観客は、ワッとくる。きたところでジャンは泣きながらソデにひっこみ、バンドは『兵士の恋人』のような、アメリカを讃えるたぐいの曲を、派手に演奏する。また、ワーッと拍手や歓声がくる。『私の息子』のレコード売上げがあがり、ジャン・ハワードのリクエストがふえる。観客は、「真実」に同化したとたんに、カネを失っている。しかし、そのことには、まず気がつかない。気がついていたら、ナッシュヴィル・サウンドが、ナッシュヴィルに対して年間純益一億ドルの産業になるはずがないのだ。
 このような調子だから、「真実」であればどんなことでもソングになる。カントリー・アンド・ウェスタンにうたわれている世界の広さは、ここに原因がある。

(中略)

 戦争で息子が死んだら、かわいそうだと感じるのは人間として基本的な感情で、そのかぎりでは真実なのだが、かわいそうだ、ほんとだ、かわいそうだ、と言っているだけでは、どこへも出口のない袋小路でどうどうめぐりをしているにすぎず、基本的な感情の同化はあっても、その同化は、ヴェトナム戦争に対してはむしろ目かくしになるのだ。どちらかと言えば決して金持ちではないアングロサクソンの世帯持ち、つまり、サイレント・マジョリティの、保守性は、頑迷にここにある。『グランド・オール・オプリイ』のステージにはじめてドラムを登場させるとき、三脚にのせたスネアドラムひとつで演奏者は腰かけずに立って叩くのであればよろしいと、長い論争のあとで決定した保守性と同質だ。(片岡義男『ぼくはプレスリーが大好き』三一書房, 1971)
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(筆者注)
ハンク・スノウ、マーティ・ロビンス、テックス・リター、ロイ・エイカフ、ジョニー・キャッシュ、ジャン・ハワード…いずれもカントリーミュージックの歌手。
ジョージ・ウォレス…元アラバマ州知事。人種差別主義者として有名。
グランド・オール・オプリイ…1925年から放送が開始されたラジオ番組。カントリーミュージックの公開放送番組として知られる。

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