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粋な学者

書店で徳永康元『ブダペストの古本屋』(ちくま文庫)を見つけてすぐに購入。生前に出された数冊の著作に収録された随筆から編まれたアンソロジーだが、ひとつひとつが実に滋味あふれ、戦前モダニズムの香り漂う粋な1冊。このタイトルが秀逸である。

ハンガリー文学者の徳永康元(1912~2003)は東京帝国大学文学部言語学科に学び、卒業後、東京帝国大学付属図書館勤務を経てブダペスト大学に留学した。ちなみにハンガリー語は独学。戦後は長く東京外国語大学で教鞭を取り後進を育成した。

ハンガリーの作家モルナールの戯曲『リリオム』は初期新劇の主要な演目だった。徳永康元は戦前の築地座でこの『リリオム』の舞台に魅せられハンガリー文学を志した。築地小劇場と築地座のスタッフ対照表が掲載されていて、築地小劇場バージョンは友田恭助、山本安英、高橋豊子、東山千栄子…築地座バージョンでは友田恭助は同じだがその他配役は田村秋子、清川玉枝、杉村春子…となっている。演劇に疎い私はこれらの役者たちの殆どを映画俳優として認識しているがそれにしても錚々たる顔ぶれ。片岡千恵蔵の映画『金的力太郎』(1931日活)や榎本健一の『天国と地獄』(1954新東宝)も『リリオム』の翻案ものだった(「リリオム」の俳優たち)という文章を読むだけでもこの本の価値はある。

欧州の古本屋巡りや古書にまつわる話題も小粋にサラリと語って秀逸。ブダペスト留学時代に買いそろえた本を戦火で失い、帰国後も空襲で蔵書を焼かれ、それでも古本屋通いを止められない相当のビブリオマニアである。駄本ばかり集めている私が情けなくなってきた(苦笑) 

戦前の東京帝国大学附属図書館勤務の頃、ブダペスト留学の頃、そして独ソ開戦にともない欧州の孤島と化したハンガリーからユーラシア大陸を横断して帰国の途についた回想など、戦前のリベラリズムやリベラルアーツの芳香が、古本屋の微かな匂いの向こう側に漂っている。

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