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Yes, We...Can?

門倉貴史『貧困ビジネス』(幻冬舎新書)を読む。

だいぶ以前のことだが、実力主義社会を歓迎する若者たちのトーク番組があった。そこに登場する一流大学の学生たちは真剣な表情で実力主義社会待望論を語っていたが、それを聞いていたパネラー(俳優)の発言が印象的だった。

「君たちさあ、みな実力主義社会は良い良いって言うけどね、君たちはみんなそのなかで生き残れるわけじゃないよ。君たちの半分、いやそれ以上はどんどん脱落していくんだよ、それでも君たちは良いのかな? 君たちの世代はみな君たちと同じエリートじゃないし、生き残る人はほんの一握りだよ。自分たちだけじゃなく周りの普通の若者もそれを歓迎しているのかな? そもそもそういう視点を君たちは持っているの?」

「貧困ビジネス」とは何か? 著者は「NPO法人自立生活サポートセンター・もやい事務局長の湯浅誠さんは、『貧困ビジネス』を『貧困層をターゲットにしていて、かつ貧困からの脱却に資することなく、貧困を固定化するビジネス(『世界』2008年10月号)と定義しています。本書では、湯浅誠さんの定義をもう少し緩めて、貧困層をメインのターゲットにして、短期的な利益を追求するビジネス全般を「貧困ビジネス」と呼ぶことにしたいと思います」と書く。貧困ビジネスのターゲットになりやすい層は…ワーキングプア、(日雇いを含む)短期派遣労働者、生活保護受給者、ホームレス、ネットカフェ難民、(5件以上の)多重債務者なのだそうだ。いずれも最近耳にすることが劇的に増えた言葉である。

かつては貧乏人からむしり取ることは卑しいとする意識があったと思う。鼠小僧次郎吉などに代表されるいわゆる義賊が講談などでもてはやされたことがその証拠だ。しかし穿って考えてみれば、こういう義賊が英雄視されたということは、それだけ貧乏人から金をむしり取る現実があったということの裏返しでもあろう。まあそれにしても貧困ビジネスの多種多様さには改めて驚くばかりである。ゼロゼロ物件、保証人ビジネス、リセット屋、名簿屋、紹介屋、整理屋、ホームレスの生活保護のピンハネ、ホストクラブにハマった女性を風俗に売り飛ばす、多重債務者からさらに搾り取るレンタル屋と質屋の共謀、慈善募金を装った詐欺……よくもまあこれだけ知恵をしぼって法律や制度の裏の裏をかくビジネスを考え出すものである。不謹慎ながらここまでくると却って感心してしまう。このへんは『難波金融伝ミナミの帝王』や『ナニワ金融道』のディティールの細かさと同じだ。

現在の世界不況の導火線に火をつけたサブプライムローン問題も貧困層をターゲットにしているし、アメリカ南部を壊滅させたハリケーンに乗じて募金詐欺のウェブサイトがネットに乱立、これは中国四川大地震でも同様の募金詐欺サイトが乱立して中国国内でも問題になった。海外、特に東南アジアで顕著なのはプロの乞食であろう。インドやパキスタンでは人為的に足や腕を切断してより哀れみを乞う乞食がいるという。しかもまだ幼い頃に親により足や腕を切断されてしまうというからなんとも陰惨な話だ。しかも彼らを多く抱える組織があり、彼らは時間になるとトラックに乗せられて何処へともなく去って行く。こうなると物乞いタレントを抱えるプロダクションである。そういえば『角兵衛獅子』の子どもたちもそうかもしれない。子どもたちは常に貧困の犠牲になるようで、フィリピンに代表される臓器売買ビジネス界でも貧困層の子どもの臓器が高値で売買されている。

専門技術者から一般労働者にまでステイタスが落ちた派遣労働者も貧困ビジネスと言える。一般企業の社員では養成困難だった、システムエンジニアに代表される専門技術者を派遣でまかなっていた頃はまだよかったのだが、派遣の範囲が一般事務まで拡大されたことにより派遣労働者は単なる人件費抑制の道具と化した。非正規雇用問題についても1980年代から欧米では普遍的に存在しており、職にあぶれる若者たちを描く映画もたくさんあった。本書のあとがきにも記されているようにゴーゴリの『外套』も貧困ビジネスの構図を持っているし、小林多喜二の『蟹工船』や老舎の『駱駝の祥子』も貧困層を描いて後世に残る不朽の名作である。かつて石川啄木が「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢつと手を見る」と読んだ頃から、世界はほとんど何にも変わってはいないように見える。

いま安定した生活を得ている人々ですら定年後は貧困ビジネスの餌食になるおそれがじゅうぶんにある。比較的裕福な老後を送る団塊より上の世代も、振り込め詐欺に蓄えを根こそぎ奪われる事態が続いており、今後もさまざまな手口で裕福な高齢者から財産を騙し取る手をいくつも編み出すことであろう。知り合いの中国人が「私が育った頃の中国は今より貧しかったけどのんびりしていて楽しかったよ…文化大革命の頃はよくわからないけどね(笑)…でも今の中国は生活も忙しなく人の心も世知辛くなってきて、なんだか疲れるね、ニッポンと同じだよ(苦笑)」と笑って話してくれたことがあるが、現在の私たちは「船に乗り遅れまい」としてみな必死に走り続けているのだろう。

アメリカは自由の国だが、それは国民が権力から自由だということで、だからこそ権力は国民を基本的には守ってはくれず、国民は自助努力で自分たちの生活を守らねばならない。1990年代以降のニッポンには、アメリカ型市場主義を喧伝する一部の経済人とそれに乗じた一部の権力者の政策によって現在の状況が生まれた。北欧諸国のように公共福祉が充実した国家の実現を期待する声が高まるなか、政府がそれを拒否し続けているのはアメリカ型市場主義路線に乗っている以上しかたない。しかしこのままだと確実にニッポンは崩壊への道を歩むだろう。

「人間は万物の霊長だっていいますがね」「ンなこたアないよ、人間なんざロクなことしねえんだから、人間がいなくなりゃ地球もよくなるよ」とは立川談志が演じるご隠居の言葉だが、まあそうなんだろうなあ…ナンダカワカンナイなあ…どうすりゃいいんだろうなあ…私たちに何ができるんだろうなあ…

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