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王さん

鈴木洋史『百年目の帰郷 王貞治と父・仕福』(小学館文庫)を読む。

王貞治といえば世界のホームラン王。タイガースファンの私も子どもの頃は王さんには一目置いていた。ピッチャーの投げるボールが、1本足で立つ王さんのバットに吸い込まれていき、王さんのバットが一閃、後楽園球場のライトスタンドへ飛び込んでいく。江夏豊、上田次朗、江本孟紀、山本和行…タイガースが誇るエース級のピッチャーも王さんの餌食だった。

王さんが打席に立つ姿はとても迫力があった。夏場は半袖でもちろん手袋などはしない。素手でバットを握り肩から肘にかけて鋼のような筋肉が盛り上がる。あの印象的な目がテレビの向こうから私たちを睨みつける。あの頃の子どもたちならみんな真似した1本足打法。真似してわかったその凄さ。王さんのようにピタリと静止、なんてしていられないのである。

ベーブ・ルースの記録を抜いた715号、ハンク・アーロンの記録を抜いた756号。特に756号のカウントダウンは大騒ぎだった。いつ出るかいつ出るか、私も毎晩オヤジといっしょにテレビを観ていた。後楽園球場でのヤクルト・スワローズ戦、マウンドにいたのは鈴木康二朗。190㎝を超える身長なのに眼鏡をかけた姿はあまりプロ野球選手らしくないピッチャーだった。

当時スワローズには安田猛という名投手がいた。公称170㎝の身長のサウスポー、針の穴を通す精密なコントロールと七色の変化球を投げ、手足が短いその姿からペンギンとあだ名されていた。左のサイドスローから投げる超スローボールは絶品だった。いしいひさいちの『がんばれ!タブチくん!』ではタブチの親友として有名(笑)安田猛は王さんの好敵手として知られており、756号騒動のときも安田猛は王さん相手に敬遠などせず真っ向勝負を挑んだのは有名な話。当時のスワローズには速球派のエース松岡弘、ぼおっとした井原慎一郎、老練な神部年男と、なかなかユニークなピッチャーが多かったなあ。

閑話休題。王さんはその姓からもわかるように中国籍、さらに言うなら中華民国籍である。私もずっと王さんは臺灣の人なんだと思っていた。王さんは臺灣の少年野球チームの英雄だったし、何度も臺灣を訪れている。後に日本プロ野球界で活躍した郭源治(中日ドラゴンズ)、郭泰源(西武ライオンズ)、呂明賜(読売ジャイアンツ)にとっても王さんは祖国の英雄だった。

しかし王さんの父、王仕福氏は大陸の出身なのだ。現在で言うなら中華人民共和国浙江省青田県の小さな村から日本へ渡った。1922年のことである。ご承知のように日本は中国と泥沼の戦争を繰り広げた。そして敗戦。大日本帝国はアメリカの占領下に置かれ、陽気な進駐軍兵士がジャズとベースボールとラッキーストライクとともにやって来た。日本軍が一掃された大陸では国民党と中国共産党が内戦を続けた。国民党は共産党に圧倒されて臺灣に逃げ込んだ。そして1949年10月、北京の天安門に五星紅旗が翻りアジアの赤い巨龍が誕生した。

王仕福は中華民国の国籍を持っていた。王仕福が日本に渡ってきた頃は中国といえば中華民国だった。1949年に中華人民共和国が建国されても日本と外交関係は1972年まで断たれていたからである。このへんの王仕福の立ち居振る舞いはそのまま在日華僑のアイデンティティの混乱に重なる。ましてや王さんの母は日本人(後に中国国籍になる)、王さん自身は東京の墨田区で生まれ育ち、もちろん中国語は喋ることができない。しかも母が中国国籍を取得するまでは母の実家の姓を名乗っていた。だから“在日華僑之英雄”「王貞治」が誕生するのは戦後になってからのこと。そして王さんは未だに中華民国のパスポートを持ち続けている。ここにも王さんの誠実な人間性が表れているのだ。

王貞治という昭和を代表するスーパースターを巡る二つの祖国と彼の葛藤、同じく二つの祖国を巧みに使い分けた王仕福。祖国という言葉には共感を覚えるものの、国籍については殆ど意識することがない私たち日本人にとって、このノンフィクションは重くのしかかってくる。

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