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What A Diff'rence A Day Makes

昨夏、臺灣へ行ったときのこと。ローカル線も屋台も堪能した私は臺北に近い基隆に宿を取り、暫くこの趣き深い港町を散策することにした。基隆車站(駅)を中心に市内の繁華なあたりは散策したので、こんどは郊外を散策することにして、路線バスに乗って和平島へ行ってみた。ここは海岸一帯が公園になっており、波風に浸食された不思議な形の奇岩群で有名。その日は小雨模様で空も海も鈍色、風の強い海岸は散策する人も少なく荒涼としていた。

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私が荒涼とした海岸を歩いていると岩のあいだで何かしている人影が見えた。岩のあいだに座り込んで何やら熱心に草を採っているらしい。ふだんはそんなことはしないのだが、なぜだか私は声をかけてみた。近づいてみてわかったのだがその人は年配の尼僧だった。

「こんにちは。ここで何をしておられるのですか?」
「こんにちは。私は海苔を採っているんです」
「こんなところに海苔が?」
「ええ、満潮のときはこのあたりも海の底ですから」
「仏門の方とお見受けしますが、なぜ海苔を採っておられるのですか?」
「ふだんは寺にいるのですが時間があるときはここで海苔を採っています。これを市場に売るといくらかになるのですよ(笑) この海苔は多くは採れないうえに品質が良いので、これでもけっこう高く売れるのです…ほら、これが海苔です。よく揉んでゴミを取るのですよ。どうぞ食べてみてください」

尼僧から渡された海苔は見たところ毛糸の固まりのようだが、口に含んでみると潮の香りが強く、舌の上で溶けてゆくとまさに海苔の味がした。しかもたいそう美味しい。とても美味しいですね、と答えると尼僧は嬉しそうににっこりと笑った。

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暫く四方山話をしたのだが、尼僧はこんなことを話し始めた。

「私は四十歳を過ぎてから仏門に入ったのですよ。もう二十年以上むかしのことです…ええ、まあいろいろありましてね(笑)…仏にすがることでようやく生きる意味を見出したのです。いまは寺でお勤めをするほかは心安らかに暮らしています。あなたは日本の方? 日本でも仏に祈るときは『阿弥陀仏』と言いますか? そうですか『南無阿弥陀仏』と言うのですか? 殆ど同じですね」

私がそろそろ失礼します、と言うと、尼僧は腕にはめていた数珠を取って私に差し出した。

「あなたにこの数珠を差し上げます。どうぞご遠慮なく…これはどこでも買える安いものです。あなたはこれから海を越えて故国へ帰るのですからこれを持ってゆきなさい。『一路平安』(道中ご無事で)ですよ(笑)」

恐縮する私に数珠を渡すと尼僧はにっこりと微笑んだ。

「たいせつなのは数珠ではありません。数珠などいくらでも手に入りますから…ここで私たちが出会ったのは何かの縁です。だからこの数珠をあなたに差し上げるのも縁なのですよ」

何度もお礼を言って私は尼僧に別れを告げて歩き出した。暫く歩いてから後ろを振り返ると、尼僧はもう岩のあいだにしゃがみ込んで海苔を採っていた。私は声をかけずにもういちど尼僧に頭を下げてまた歩き出した。

数珠のおかげか、私は無事に日本に帰ってくることができた。尼僧にもらった数珠は今でも私の家にある。

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コメント

そのお数珠は幾らお金を積んでも買えない物になりましたね。
40過ぎて仏門ですか…うん、この年になって決めた事は、もうあまり揺るがないかも。私はそちらに向かう気は全くありませんけれど、何かを決意するという気持ちは理解できますね。

つたえつ様

おひさしぶりですね、お元気でしたか?

数珠なんか貰っちゃってどうしようと思いましたが、尼さんの淡々とした物言いにしみじみしました。

つたえつ姐さんが仏門に入るとはとうてい思えませんが、剃髪した姐さんを想像すると……わはは、けっこう可愛いね(笑)

そんなものは想像しなくてよろしいっ!

そういえば、短大を辞めて大学受け直す時、仏教にも興味があったから「仏教学部も考えてみたい。」って高校の時の担任の先生に相談に行ったら、「そんなとこは寺の息子が行くんだ。オレはおめーの坊主頭なんか見たくねぇ。」と言われましたっけ…諸行無常…(笑)

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