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『無錫旅情』の謎

尾形大作という歌手がいました。彼は80年代に活躍した若手演歌歌手でした。彼の大ヒット曲は言うまでもなく『無錫旅情』です。この『無錫旅情』は1986年から1987年にかけてロングヒットとなりました(知らない人はお父さんお母さんに聞いてください)。さて、みなさんは無錫(むしゃく)とはなんのことだかご存じですか? 無錫というのは中華人民共和国江蘇省南部にある工業都市です。太湖という風光明美な湖がある景勝地としても知られています。

この長江デルタ地帯の都市といえば、魔都と呼ばれた上海、文化人の憧れ杭州、東洋のベニス蘇州、魯迅の故郷、紹興酒でもお馴染みの紹興、古都南京などが、日本人にはよく知られています。しかしこれらの都市に比べて無錫は地味。錫(すず)の産地だったのでかつては「有錫」と呼ばれていたが、ついに錫を掘り尽くしてしまって、以来「無錫」になったという、よくわからない説あり。

尾形大作、いやこの歌詞に出てくる男は、なぜ無錫というマイナーな都市を目指したのか? 当時、中国文学専攻の学生だった私たちにとって、これは格好の話題であり、何度となく論争(妄想)を繰り広げました。

傷心の旅がなぜ津軽半島や能登半島じゃなくて中国なのか? なぜ上海や香港という異国情緒溢れる都市ではなく、杭州、蘇州というメジャーな都市でもなく、無錫なのか? 当時の無錫は開放都市だったのか? 未開放都市だったら上海で許可証を取得したのだろうか? 公安(警察)にマークされなかったのか? 外国人が宿泊できる施設はあったのか? 彼は中国語を話せたのだろうか? そもそも彼は無錫へ何をしに行ったのか? なぜ無錫だったのか?

「上海蘇州と汽車に乗り〜♪」というからには、あの薄暗くてだだっ広くて、大いなる喧噪とゴミに溢れかえった上海駅の、切符を求める人民たちで充満した切符売場で延々と並んで切符を買ったのか? それとも旅行社に手配したのか?  いずれにせよ外国人料金(当時はそういう料金区別があったのです)で買ったはず。それは硬座(木製の座席)なのか? 軟座(ソファ)なのか? 列車はおそらく上海発無錫経由南京行き普通列車だろう。となると、1980年代に外国人が乗るのだから当然軟座だ。いや、バックパッカーなら硬座に乗ったのかもしれない。

そして私たちの妄想の結果、彼のキャラクターは次のようなものに落ち着きました。

20代前半で、大学時代はおそらく中国文学または歴史学を専攻していたか、またはアジアに興味があったか、あるいはひとり旅を愛するバックパッカー。すでに就職しているか、大学卒業を控えており、それまで交際していた女性と別れることになった。傷心の旅に出ようと思ったが、すでに津軽半島や能登半島はクリアしており、ちょうど改革開放政策で渡航が容易になりつつあった中国に行くことにした。

貧乏なので神戸港から鑑真丸に乗り、人民服と自転車で溢れかえる上海に上陸した。ところが上海はあまりにも雑沓し過ぎてうるさくて汚ない。どこか落ち着いて泣ける街へ行きたいと、バックパッカー御用達のドミトリーで『地球の歩き方』を広げて計画を練った。蘇州や杭州はロマンチックだが古くさそうだし、南京も大都市らしいし日本人にとってはなんかアレだし、紹興は酒くさそうだし、どうしよーかなー? と考えているうちに、無錫という不思議な名前の街に気がついた。大きな湖に面しているとのことだし、ちょっと行ってみたくなっちゃったなー。ちょうど上海−蘇州−無錫−南京という路線だし。

さっそく上海駅に出かけて、無錫行きの切符を買うために窓口で2時間並んだ。しかし服装から外国人であることがバレて、外国人窓口へ行けと追い払われ、しかたないけど外国人料金で切符を買った。公安からは「オマエハ無錫ヘナニヲシニイクノカ?」と聞かれたが、中国語があまり巧くないので筆談で説明。「我是日本人。我愛中国。没有反共思想。我失恋了。為癒心想去無錫。没有別的意思」公安はナニガナンダカワカラナイけど、まあ思想的にも人畜無害らしいので注意するだけで開放してくれた。そして彼は意気揚々?と無錫の街を目指したのであった…

いまでも私にとって『無錫旅情』は謎の作品なのです。

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コメント

『無錫旅情』って、中国かどこかの曲のカバーじゃ無いんですか?
日本から出発する内容でしたっけ?

その、妄想された主人公、どなたかの分身みたいですね。

つたえつ様

1番の歌詞、出だしは以下のとおり。
「君の知らない異国の街で 君を想えば泣けてくる♪」
何処から来たかは知らないが、すでに訪中してますね。
上海でも香港でもなく、なんで無錫なんだろう?って当時話題になってましたよ、って、私の周囲でだけですけど…
最近はテレサ・テンばかり聴いています。いつ聴いても良いなあ、テレサ。最近テレビドラマ化されたらしいですね、観てないけど。

素晴らしい考察ですね

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