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暗闇の古本屋

いつものようにくたびれ果てて家路に着く途中、川のほとりに一軒の古本屋をみつけた。以前はたしか食堂があったような気がするが、いつのまにか古本屋になっていた。これはいちど挨拶に行かねばならぬと扉を開ける。挨拶といってもようするに品定めをするだけだが。

文庫本中心の、それもこれといった目玉のない無難な品揃えである。まあこんな場末の街で黒っぽい本を揃えても商売にはならないだろう。旺文社文庫の内田百間がぞろりと揃っていたので値段を確認すると、予想通りどれも1000円以上の値がついていた。カウンターには初老のオジサンが無言で座っている。BGMは『I only have eyes for you』、女性ボーカルにテナーサックスが絡んでなかなか良い感じのトラックだが、誰が歌っているのかはわからない。

せっかく挨拶に来たのだから何か買って帰ろうと、棚の隅から開高健のルポルタージュ『ずばり東京』を抜いた。東京オリンピック直前の東京、新宿にサラリーマンと学生が群れ集い、東京の玄関だった上野駅に家出した少年少女が集まり、大手町に都庁があり、日本橋は首都高の高架に覆われたばかりで、練馬の畑で大根が作られ、佃島に渡し船があった頃の東京シチー(by 篠原勝之)だ。

まえがきによれば、芥川賞を受賞していちやく小説家の仲間入りをしたはいいが、お定まりのスランプに陥り鬱々としていた頃、大先輩の武田泰淳に「小説が書けなくなったらムリせずにルポルタージュを書け、書斎にこもって酒ばかり飲んでいちゃダメだ」と助言されての産物。開高健は東京のあちこちに棲むひとびとの生活とことばを活き活きと書きとめている。後年、硝煙たなびくベトナムやナイジェリアを彷徨い、大魚を釣りに世界のあちこちへ出かけた原点となる作品だ。

この店はほかに面白そうな本も置いていないので、もう二度と足を運ばないかというと実はそんなことはなく、また近いうちにくたびれ果てて家路に着く途中、私は住宅街の暗闇にぼんやりと浮ぶこの店の扉を開けるのである。

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コメント

次に訪れようとしても、その店には何故か辿り着けず…

とか、

次に訪れると、その店が在った筈の場所は雑草の生い茂った空き地になっている。辺りの人に尋ねると「その本屋なら数年前に潰れた」と言われ…

みたいな展開になりそうなんですが?

つたえつ様
陶淵明の『桃花源記』じゃねえっての(笑)
その後あの店に行ってないけど、なんだか行きたくなくなるじゃねえか、オイ。

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