2020年9月
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30      
フォト
無料ブログはココログ

最近のトラックバック

« 犬神家の一族(2) | トップページ | 京急大師線を歩く »

犬神家の一族(3)

『犬神家の一族』は、家族の愛情を生涯拒絶し続けた犬神佐兵衛、親子の愛情には薄かったが実の息子たちには惜しみなく愛情を注いだ松子、竹子、梅子の娘たちの親子愛、莫大な遺産相続に巻き込まれた佐清、佐智、佐武、そして謎の男・青沼静馬、犬神佐兵衛の異常な性愛と野々宮珠世の秘められた関係…これらがみごとにつなぎ合わされ、本格推理と怪奇趣味がみごとに織り込まれた横溝正史ミステリの傑作。

青沼静馬と犬神佐清は戦地で宿命的な邂逅をする。静馬はあらためて犬神家に復讐を誓い、佐清は自分の不注意で部隊を全滅に追い込んでしまった負い目から復員を躊躇う。この時間差と親子の愛情が致命的となり惨劇の扉を開けてしまった。

犬神家の一族は揃って古い因習のなかに生きている。日本の近代化の節目節目に起こった戦争と、戦争によって大きくなっていった犬神財閥は、そのままポジとネガの関係にある。もう戦争は終わったはずなのに、戦地から悪魔が牙を磨いで犬神家に舞い降りてきた。そしてこの惨劇のなかでただひとり冷静に戦後を生きているのは野々宮珠世だけだ。

珠世は冷静にゴムの仮面を被った男が誰なのかを見極めている。しかし松子以下、圧倒的な因習の群れの前で孤独に立ち尽くしていた。その彼女の前に現れたのが近代合理的精神の権化・名探偵金田一耕助なのである。

ある意味で珠世は『青い山脈』の原節子と同じ戦後女性の象徴であろう。松子も佐清も戦争を引き摺っている。佐清に至っては戦争責任をひとりで背負い続け、戦後を生きる気力を失いかけている。珠世はそんな佐清に「戦争は終わったのに、なぜあなたは今でも戦争を引き摺っているのですか」と問いかけ続けているのである。

映画のなかで珠世が佐清に「この時計は戦争中に狂ってしまいました。この時計を直せるのは佐清さんだけです」と言って懐中時計を手渡すシーンがある。戦争中に何もかもが狂ってしまった。その狂ってしまった何もかもを直せるのは佐清をおいて他にはいない。それを冷静に指摘するのは珠世だけなのである。珠世だけがそのことを理解しているのだ。

しかし松子も竹子も梅子も、わが子可愛さのあまり、佐清にすべてをまかせるということに気づかなかった。佐智も佐武も金と情慾に駆られて盲目になってしまった。それが故に犬神家に悪魔を招き入れることになってしまったのだ。

信州の美しい自然と街並(いまだにこの古い街並が遺されているところに感心)、大野雄二の前作を踏襲した美しい音楽がみごとに溶け合って効果をあげている。名匠・市川崑監督も90歳を超えてなおこの映画に心血を注ぎ、新旧の名優たちが熱演をみせるこの映画は、『犬神家の一族』ファンとしては実に嬉しい年末の贈り物だった。

« 犬神家の一族(2) | トップページ | 京急大師線を歩く »

映画・テレビ」カテゴリの記事

コメント

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 犬神家の一族(3):

» 劇場『犬神家の一族』 [映画ダイエット]
監督:市川崑 出演:石坂浩二、松嶋菜々子、尾上菊之助、富司純子、松坂慶子、萬田久子、葛山信吾、池田万作、石倉三郎、三谷幸喜、林家木久蔵、深田恭子、奥菜恵、岸部一徳、大滝秀治、草笛光子、中村玉緒、加藤武、中村敦夫、仲代達矢、他 30年前の同じ監督による同作品の..... [続きを読む]

» 「犬神家の一族」(2006年版) 贅沢なリメイク版・・・ (追記)  [取手物語~取手より愛をこめて]
「犬神家の一族」のリメイク、しかも市川+石坂コンビで。これは金田一耕助ファンの私には非常に嬉しいと同時に、やってほしくなかったという気持ちと半々で非常に複雑なところでした。... [続きを読む]

» 市川崑の金田一耕助 ~「犬神家の一族」(2006) 天使のような風来坊 [取手物語~取手より愛をこめて]
「犬神家の一族」を鑑賞して1週間経つ。ここへきてやっと映画プログラムの表紙をめくった。 [続きを読む]

» 市川崑の金田一耕助 ~「金田一です。」(石坂浩二著) 天使のような風来坊2 (追記) [取手物語~取手より愛をこめて]
「犬神家の一族」(2006)を鑑賞してから約半月。ここへきてようやく「金田一です。」(石坂浩二著)に目を通した。 [続きを読む]

« 犬神家の一族(2) | トップページ | 京急大師線を歩く »