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ハードボイルドは男のセンチメンタル

矢作俊彦『ららら科學の子』を読む。

学生運動の真っ最中、殺人未遂で指名手配を受けた男は、謎の組織の手を借りて中国大陸へ密入国した。その頃、中国で起ったプロレタリア文化大革命が全世界を震撼させていた。毛沢東思想こそすべてであり、毛沢東という後ろ楯を得た紅衛兵が、これに反する旧社会の遺物をすべて打倒していた。年端も行かぬ少年少女が毛沢東語録を振りかざして、知識人や資本主義者とみなされたおとなたちを残酷に殴打、殺害した。数え切れぬ文化遺産が破壊され、中国社会は十年の長きに渡って停滞し、数億の人民は一生消えぬ傷を負った。

男は外国から来たプロレタリア革命戦士として華々しく迎えられ、まもなく無用の人間となって南方の農村に幽閉される。以来、三十年の時を経て男は中国の農民として日本に密入国した。蛇頭と呼ばれる人買いに生涯かかって稼ぐだけの金を払って故国に向かった。

帰ってきた男の目に映るものは平和そのものの東京。若者たちは奇妙な化粧とファッションに身を包み、子どもまでもが携帯電話を駆使して二十四時間うろついている。三十年の空白を埋めるには、あまりにも多くのものが変り過ぎていた。両親はとうにこの世を去りたったひとりの妹は何処にいるのかわからない。男はかつての学生運動の同志が差し向けた裏社会の男たちに庇護され、男にとっては“未来の街”東京を歩く。

男は追いかけてきた蛇頭に襲われるが、ボディガードの青年ジェイに救われる。同志とは携帯電話で話をするだけでついに会うこともない。渋谷で出会った少女から現代日本社会について講議を受け、その代わりにランチやディナーを供する。生き別れた妹と携帯電話で話をしたあと、ふいに中国に残してきた妻に会いたいと思う。男はジェイが用意した偽造パスポートを手に中国へ向かう。

矢作俊彦らしいハードボイルドタッチの文章が小気味良い。文革時代の下放の様子もけっこうそれらしく描かれている。学生が学ぶべきものは大学にはなく、それは農村における労働から学ばねばならない、という毛沢東の命令のもと、数知れぬ知識青年が中国全土の農村に幽閉された。この一連の運動を「下放」という。現在、中国で活躍する五十代の作家や芸術家、知識人のほとんどは、この「下放」で青春の日々を苦い思い出に染めている。

ところで男が受け取った偽造パスポートの名前は、、、杉浦五郎。
「わあお!」私はここで思わず声をあげてしまった! 大友克洋の傑作コミック『気分はもう戦争』(原作は矢作俊彦)に出て来る元傭兵の日本人が、ブルックリン橋で狙撃されて死ぬときに呟く。「俺の名はゴロウ、、、ゴロウ、スギウラ、、、忘れるな、、、」 ま、これももとをたどれば日活アクション映画『紅の流れ星』(1967)で渡哲也が演じた主人公の名前なんだけどネ。矢作俊彦のこだわりを感じた一瞬でありました。

ハードボイルドは男のセンチメンタル。さすが、矢作俊彦。

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