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日本の女優

四方田犬彦『日本の女優』(岩波書店)を読む。

原節子と李香蘭(山口淑子)、日本映画史に残るこの二人の女優の、戦前から戦後にかけての活動を丹念に追いかけ詳細に分析した、知的興奮を誘う一冊。

原節子は“永遠の処女”と賞讃され、戦前は山中貞雄、伊丹万作、島津保次郎、戦後は木下恵介、黒澤明、小津安二郎、成瀬巳喜男と、日本映画の巨匠たちにこぞってキャスティングされ、押しも押されぬ大女優となった後、突然映画界から引退し、世間との交渉をいっさい絶ってすでに半世紀が経とうとしている。そのストイックな風貌と相俟って彼女の生涯は厚いベールに覆われ、いまだに評価に値する原節子の伝記というものは存在しない。その容貌から原節子混血説がいまだに根強く流布されているが、それを証明する事実というものもまた判明していない。1937年、ドイツ人の映画監督アーノルド・ファンクが製作した『新しき土』の主役に抜擢され、ドイツで大絶賛されたことから、原節子はスターダムにのしあがる。彼女のある種日本人離れした容貌と体格がドイツで好評を博したのだろうか。このへんに原節子=混血説の根があるのかもしれない。

李香蘭は日本人・山口淑子として満州に生まれ育った。父親の方針で幼い頃から中国語を学び、少女時代に“歌う映画スター、中国人・李香蘭”として映画スターへの道を歩み出した。戦前は幻の満州映画協会(満映)で中国人スタッフとともに映画に出演、戦時中は好日映画に多く起用されたが、敗戦の後、漢奸(戦争中、日本に協力した中国人)としてあわや処刑されそうになるが、日本人であることが証明され無罪となり帰国。戦後は女優・歌手として活躍したが昭和30年代初めに引退。アメリカに渡り彫刻家イサム・ノグチと結婚したがすぐに離婚、その後外交官の大鷹弘と再婚。天性の語学と政治の才に恵まれ、政治ジャーナリストから政治家に転身したことは記憶に新しい。

日本にあって日本人離れした女優として評された原節子と、日本人でありながら中国人として生きてきた李香蘭。このふたりの女優を比較分析した本のタイトルが『日本の女優』というところが、さすが四方田犬彦と唸らざるを得ない。

余談二題

その1 高峰秀子が中国映画界に留学し損ねたという話。

「北京生まれの「山口淑子」を、中国人、李香蘭という女優に仕立てて「支那の夜」を歌わせ、長谷川一夫とコンビを組ませて「白蘭の歌」「熱砂の誓ひ」と、矢つぎ早にラブ・ロマンス映画を製作上映した東宝は、北京の「中華電影公司」から「王洋」という若い女優を三年の期限つきで東宝映画へ招き、そのかわりに東宝からは私が三年間、「中華電影公司」へ勉強に行くという計画を立てた。今で言う交換留学生であった」(『わたしの渡世日記』文春文庫)

結局この話は流れてしまったのだが、もし実現していたらどうなっていだろう。映画ファンとしては興味をかき立てられるところだが、そこは高峰秀子は冷静に話を結ぶ。

「もしも、あの時、私も兵隊さんのように中国へ輸出されていたら、今頃、中国語くらいはペラペラで、日中平和条約締結のお役に立っていただろうに、と考えるのは女の浅はかさで、敗戦後、無事に帰ることも出来ず、親切な中国人に拾われて太太(奥さん)となり、恥ずかしながらと「日本への里帰り」を申請する身となっていたかもしれない。人間の運命なんて、アミダのくじを引くようなものだ」

その2 原節子の久我美子評

「原節子さんがお辞めになるって宣言なさったとき、沢村貞子さんの家で、原さんとか中北千枝子さんとか、乙羽(信子)さんもたまにいらっしゃって、麻雀をよくやったんですよ。そのときに『原さんみたいな女優がお辞めになるなんて、もったいないからもうちょっとやって下さい』ってお願いしたのね。そしたら『だって、わたしには何もないんだもん』っておっしゃるから、『なにが何もないんですか。演技賞だっておとりになったりしていらっしゃるし』『それに、美しくないもん。あんなにしわだらけの顔が醜悪!』、それで『そんなこといわないで下さいよ。わたしたちだって何もないじゃないですか』っていったら、原さんが『いいえ、久我ちゃんはね、特殊児童という素晴らしい役柄があるわよ』っておっしゃるのね」(川本三郎著『君美わしく〜戦後日本映画女優讃』文春文庫)

“永遠の処女”もずいぶんと辛辣なことをおっしゃる。
それにしても日本映画を代表する錚々たる女優たちが雀卓を囲んで、ポンだのロンだの、リーチドラドラ、ちょいと点棒数えてよ、ちぇっ、五千円の負けかあ、などと連呼している場面を想像すると、なんだか可笑しい。

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