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やわらかい生活

『やわらかい生活』を観た。上映館が少ないうえに封切から時間がたってしまったので、渋谷では朝10時から1日1回になってしまった。しょうがないのでレイトショーを観に行くことにした。実にひさしぶりにキネカ大森を訪れたら、受付に「アジア映画サポーターズ倶楽部が廃止になりました」という掲示が出ていた。アジア映画のブームも終わった、というよりはもう日本でも普通に上映されるようになって、専門館という稀少価値がなくなったからだろう。ここはアジア映画専門館として売り出したところで、当時は中国、香港その他アジア映画をいろいろと上映して重宝させてもらった。北朝鮮のゴジラ映画として知られる『プルガサリ』もここで観たなあ。

私が学生の頃にアジア映画を観ようと思ったら、フィルムセンターや各国大使館などの施設や一部の映画館での特集上映(中国映画祭とかネ)に出かけるしかなかった。そこにはいつもマニアや研究者が群れ集い、一種異様な雰囲気を醸し出していたものだった。それほど観るのは大変だったのである。もう20年も昔のことだ。それから比べると1990年前後の中国、香港映画ブームに始まり、韓国、ベトナム、イラン、インド映画が少しずつ注目され始め、今ではアジア映画は至極当然に封切館で観られるようになった。上映館も増えてゆき、『ぴあ』を丹念に調べなくともけっこうあちこちで観られるようになった。時代は変わったのである。

欧米(特にアメリカ)偏重の反語としてあったエスニック・ブームは、1980年代はまだまだ一部の好事家しか知らない風潮だった。何しろ80年代ってのはポップでクールでスカスカな時代だった。これは私の持論だが、この頃から家庭や職場、公共施設に空調が普及し、日本人はアジア的な温度感を見失っていた。システムによる集中管理で温度差を喪失した時代だったのである。ところが、日本人が快適な空調の効いた島国に閉じこもっていた頃、中国や韓国では熱い熱い政治の風が吹き荒れていた。冷戦構造の終焉と社会主義体制の崩壊、封じ込められていた自由のエネルギーが少しずつ外へ向かって発信されてゆき、とうとう殻を破って爆発した。

いまではすっかりロリコン映画の巨匠(笑)となった張藝謀監督の『赤いコーリャン』(1987)を初めて観たときは、画面から吹き出すエネルギーにそれこそ腰を抜かすほど驚いた。画面から濃厚に吹き出す生と死、性、暴力、喜怒哀楽の匂い、むせかえるような温度と湿度、強烈な色彩と広大な空間に圧倒された。例えは適切ではないかもしらんが、かつての日本のヤクザ映画が持っていたあの強烈なエネルギーがそこにあった。ああ、いまの日本はスカスカだなあ、絶対中国にはかなわないなあ、と実感したことをいまでも憶えている。

で『やわらかい生活』だが、バリバリのキャリアOLだったが精神を病んでいまは無職、家族も友人もなく東京の場末の街・蒲田のアパートにひっそりと住んでいる橘優子(寺島しのぶ)の生活を、どこか懐かしい風景のなかで優しく淡々と描いた映画。原作は絲山秋子の短篇小説『イッツ・オンリー・トーク』。

ある日、駅前の街頭演説をしている区議の本間(伊藤俊介)に声をかけられた。本間は優子の学生時代の友人で、ふたりは再会を祝して飲み歩き優子の部屋に泊る。しかしEDの本間は優子を抱くことができない。ネットの掲示板で知り合った痴漢のKさん(田口トモロヲ)と映画館で身体を弄られ恍惚となる。優子は痴漢のKさんと高級レストランやドライブに出かけては身体を弄られる。Kさんは礼儀正しい痴漢なのだ。優子がネットで紹介した公園を訪れたいとうつ病のヤクザ(妻夫木聡)が蒲田を訪れる。ヤクザと優子は居酒屋で「どんな薬飲んでるの?」と意気投合する。福岡からやってきた従兄(豊川悦史)は妻子と別居中で現在無職の四十歳。優子の部屋に居候して何くれとなく彼女の面倒をみてくれる。炊事洗濯から優子の看病までするその献身ぶりは、女性からみたらなんと素敵な存在であろう。

その従兄も田舎に戻ってから事故で死んでしまう。ある日優子は娘とふたりで買い物をしているKさんを見かけた。うつ病のヤクザは塀の向こうに行ってしまった。本間は恋人ができたようだ。居心地の良い街で居心地の良い男たちと過ごし、うつ病から少しずつ立ち直りかけている優子は、また独りになってしまった。優子は夕日を浴び乍ら銭湯で独り涙を流す。

いまの日本映画の普遍的なテーマである「痛み」を廣木隆一監督が丹念に描き出している。前作『ヴァイブレーター』でコンビを組んだ寺島しのぶも期待に違わぬ好演。豊川悦史とのコンビが絶妙だ。

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